115.アロイス君のこと②
2017/08/15
西ドイツとの国境近く、モーツアルトのザルツブルクとヒトラーの生地ブラウナウの間近くにある、小さな小さなウーツェナイヒという寒村に暮らすアロイス君。私はドイツのワイン学校在学中に十数回彼の家を訪れました。物凄く大きな農家です。先祖伝来の畑が100ha程あるところに、隣地のもっと大きな農地を持つ家の長女を嫁さんに貰ったものですから(その家にはあと妹が2人きりだったものですから)、それも相続して200ha以上の個人農家。制度上、日本には滅多に存在しない豪農です。農地の殆どは小麦畑ながら、10ha程はりんご畑、2ha程はイチゴやサクランボ、プルーンの畑。醸造所も所有しています。気温がワインぶどう栽培には適していないため、リンゴの酒(シードルのことでドイツ語ではモスト)、そしてそれを蒸留して作るシュナップスという40度前後の強いアルコールも作っています。
最近では観光にも目覚め、夏の涼を求めて訪れるイタリア人達に提供すべく、十数室の中長期滞在型ホテルも経営しています。畑も小ぎれいですが、建物群を取り囲む庭の素晴らしいことといったら。一見の価値ありの情景を四方に巡らしています。
かつて彼も私も若かったころの真冬の話。彼の家に長逗留しながら、彼の弟達や妹達(計5人)と楽しく時を過ごしました。アロイス君の「オチはウォルフガング・モーツアルトの曲を幾つも知っているよ」に、弟・妹たちが、「じゃあ、この曲知っている?」、「こっちの本の曲は?」と次々と唱歌集(小・中学校の音楽の教科書でGesangbuchゲザングブーフといいます)を取り出して来ます。小中学校は合唱部に所属していた私ですから、彼らと一緒に歌いますが、次から次と知っているメロディーの多いことと言ったら。かつての文部省が選んだ日本の唱歌のかなりは原曲がドイツ語なのが判った次第です。「蝶々」しかり、「夜汽車」しかり、「仔狐こんこん」しかり、「遠足」しかりです。かの滝廉太郎の歌曲もドイツのメロディーの影響を確実に受けています。
一番賢そうな妹が、「じゃオチこの曲は?」と歌ったのは、これも日本では誰でも知っている「清しこの夜」。彼女曰く、「この曲はね、あの丘の向こうにあるチャペルの神父さんが作ったのよ。」私が、「えっ。その人グルーバーって名前?」「えっ。オチ知り合いなの?」。とてもびっくりしました。「ベアテ(妹の名前)、この曲は地球上のとても多くの人が知っているよ。君の家族はこの曲がこの家から数km以内で作られたことをとても誇りにしていいと思うよ。」
こんな案配で、私は今でもこの家族が大好きです。
Stille Nacht, heilige Nacht. (シュテーレ ナーハト ハーイリゲ ナーハト)
静かなる夜、聖なる夜。
Alles shlaeft,einsam wach.(アーレス シュレーフト アーインザム ヴァーッハ)
皆は眠り、独りは目覚め。