118.欧米人の姓名考

2017/09/03

  家への帰属意識が強い日本では他人同士の場合、姓で呼び合うことが多く、反面、家というよりは個体として主張したがる性癖の強い個人主義の欧米では、少し仲良くなるとすぐ名前(ファースト・ネーム)で呼ぼうということになりがちです。その際面倒なのは彼らが少なからずもうひとつの名前(ミドル・ネーム)を持っていることで、しかも本人がそれを所望する時。前出南アフリカ連邦共和国出身の級友ジェームズ・ロス・ガウアー君は本人の希望ではロス。その意に反して級友達はジェームズと呼び、私は彼が由緒ある家柄の人間なのを知っていたので、終始、ガウアー君で通しました。本人はきっと笑っていたことでしょう。僕には3つ名前がある、と。
  欧米人のミドル・ネームには、しかしもうひとつ効用があります。家長(父親)が同名(同じファースト・ネーム)の場合です。これは是非2番目の名前(ミドル・ネーム)か独自のニックネームで呼び合わないと、家庭の中でさえ混乱してしまいます。実際ドイツの同級生のうち2人はその家の規則として長子が父親と同じ名乗り(ファースト・ネーム)でした。固定電話の時代でしたから、ガールフレンドからの電話に父親が出ることになりかねません。
  ニックネームについては、こんな経験をしました。前出のガウアー君は真白い肌で小肥りのいかにも豚にちなんだニックネームが付きそうな体付きの人間でしたが、彼は先手を打って自分に次ぐ小肥り系の級友に「ポーキー」と名付けて、自身に豚系のニックネームが付くのを防ぎました。
  私は町のサッカー代表としてプレーしていましたが、足が速い左ウィングの私に対して、中央で点を決めて呉れるセンターフォワード氏のニックネームはKartofel(カートーフェル)。日本語でジャガイモですからダサイあか抜けしない男かといえばさにあらず。ドイツ人にとっては大好物の主食ゆえ、そんなマイナーなイメージではなく、唯、頭の形がいつも坊主刈りでジャガイモに似ていたから。とても頼りになるポイントゲッターで私も他の皆も彼を好いていました。
  西部劇によく出て来る酒場(サールーン)のガラクタ・ピアノのラグタイム風メロディーに合わせて歌うポール・マッカトニー作“Rocky Raccoon”の一節が好きです。

Her name was Magill,
and she called herself Lil,
but everyone knew her as Nancy.
彼女の名はマギルで、
彼女は自分のことをリルと呼ぶ、
でも皆にはナンシーの通り名で知られていた