121.日本食文化の伝導者フランス

2017/10/11

  現代に暮らす私共がつい忘れがちなこと、それは現代を創り出すもととなった近世の歴史です。特に現代に於いては、自由に発想し、自由に自分の意見を述べられることが当たり前となっているため、ほんの少し前の時代にそのような行為が殆ど不可能だったことを全く忘れてしまっているようです。
  今から僅か240年前のフランス革命。もし、この価値観の大転換とでもいうべき革命が起きず、続いてナポレオンが出現して欧州中の封建制(王制)を潰して歩くことをしていなかったら。歴史にifは無いと言いながら、私はこんなことを考えるのが好きです。あの時あの革命が無ければ、今の自分はどういう暮らしをしていただろう…と。
  民主主義、自由主義の台頭が豊かな発想を育み、諸々の有益な発明を喚起したことは確かで、そしてそのことは又、歴史の逆回りたる封建主義の再興を強く妨げたハズです。
  たまたま私の人生が現在田舎にあってぶどう栽培を業としているため、これが徳川時代ならば、と思うことがあります。栽培作物の自由選択は勿論許されず、自分の労働や努力は決して正当に評価されず、いつも領主様の御意向の通り頭の中をカラにして働き、病いを得れば人生はそこで終り。精神の自由性や人生の満足度に於いて、あの時代と現代の違いは歴然としています。
  欧州の一隅に住むフランスの人々が近世の歴史に於いて、何故人類の民主化・自由化の梃子となる役割を果たさなければならなかったのかは謎ですが、その後もこの国民は、次々と人類にとってユニークなアシストをし続けています。空間芸術たる美術に於けるフランスの大いなる貢献に異を唱える人は居ないでしょうし、又自由音楽たるジャズの有意性を発見し世に拡めたのも彼ら。そして今、食の文化に於いても又々面白いことを画策しています。
  東洋の中華料理と西洋のフランス料理。東西の双璧の如く持て囃される二つの料理ですが、近年この二巨頭の間に我が日本料理が割り込んで来ているのを皆さんご存知ですか。しかも日本の普通の家庭料理がです。
  パリでは寿司ならぬ幕の内弁当がブームと聞きますし、daciや oumami(うまみ)というフランス語まで現れたとのこと。先進諸国の中でも長寿の国・日本。特に女性は特別に長寿で、ITを通じて視覚的に接することが容易になった現在、何故日本の女性だけが中年以後も肌がきれいで、多少老齢化してもいつまでも小可愛いのか。その答えは日常食にありとばかりに、幕の内弁当が研究されているフシがあります。少しの御飯に7つ8つのお菜。それぞれ形や味で細かい工夫がされていて、とても美味しく至ってヘルシー。よし、じゃあ私も日本人の日常食とでも言うべき幕の内弁当を一度食べてみよう。そして一度食べたら、「えっ。日本の人ってこんな素晴らしいものを毎食のように食べているの?」となります。
  それもそのハズ、よおく考えてみてください。欧米の食事は超高級なフルコースでない限り、基本は一食一菜プラスサラダくらいが普通です。ところが我が国日本の食事は違います。都会のサラリーマンは昼食を西洋風に摂る人も多いでしょうが、夕食は一般に多彩な料理を楽しみます。
  海外渡航歴の多い私が胸に手を当てて深く考えますに、きっと日本の食事は色々な意味で世界一だと思います。その証拠にフランス人が、自国に鰹節工場を作ったり、椎茸の栽培をし始めました。文化の伝導者を自認する彼らのことですから、自分の国で拡め、次は世界中の国々に拡めようとすることでしょう。お蔭様で8月末のニュースで伝えられていましたが、「にんべん」のカツオブシが十数パーセント、「はごろもフーズ」のシーチキン(中身は鰹で、現在その原料の魚が日本国内で不足気味)が三割近く値上がりしているとか。恐るべし、でも本心はちょっぴり嬉しいですね。