126.カイ君のこと
2017/12/29
かつて23年間経営した新潟市のCave d’Occi(カーブ・ドッチ)時代は、合計417匹の捨て猫の世話をしました。こちら余市に来てから5年余、猫は相変わらず20匹以上世話をしています。新潟から連れて来た2匹も元気です。
さてこの7月下旬の或る朝、ワイナリーに隣接した自宅のインターフォンが鳴りました。玄関に出てみると、知らない人が折り入って話があるとのこと。その初老の男の人が、「スミマセン、犬を貰って下さい」。私の場合、この手の前置き無しの会話は割合好きです。相手が急き込みながらも、「実は余市のクロネコヤマトに務める〇〇です。集荷センター裏の人が飼っていた甲斐犬、飼い主が急に本州に引っ越しするのに置いていくこととなり、持ち主を探しています。是非オチさん飼い主になって下さい。」 必死の形相で迫ります。
4年前のワイナリー開業時には出荷するワインも少なくて、こちらが集荷センターに持ち込み、何度か集荷センターの裏のあまり餌も与えられていないと思われるその犬に、ドッグ・ジャーキーを10本程ずつ与えた記憶があります。又、集荷センターの人に、「あの飼い方は良くない」と批判めいた意見を言ったこともあります。それを覚えていた人が居たのです。
すぐ、家の中に戻り妻のGabiに相談しました。彼女も覚えていて、「えっあのカイ君?飼いましょう。」兎に角常に判断が早い人です。甲斐犬だからカイ君。ジャーキーを与える時に勝手にこちらが付けていた名前です。
さあ、それからが大変。ぶどう畑と駐車場の間の良く芝が生えているゾーンに、高さ2mの丈夫な支柱を2本立てて20mのワイヤーを張り、獣医に見せて狂犬病の予防注射を打ち、大きな新築の家も作ってあげました。旧飼い主とは一瞬会いましたが、周囲の人々の話ではひどい飼い方で、予防注射も打たず、小屋も作らず雪に埋もれたままの外飼い。更にはよく放し飼いにしてカイ君は近所を乞食して歩いていたとか。保健所の発行した出生証明書だけは保存されていて、何と満11歳の高齢犬。何という運命でしょうか。そんなとても賢い犬が我が家に(我が社に)やって来たのです。
物の本によると、甲斐犬は主人にだけ従順な性癖の猟犬で他人にはなつきにくいとありますが、以心伝心、私共の思いが通じてか丸で大昔からの仲の如き付き合いが初日から始まりました。22kgもあって勇者の観のある立派なカイ君。毎朝夕に散歩するのが日課です。2万坪弱ある我がぶどう畑の周囲を、カイ君はグイグイと老犬とは思えぬ力で強く引きながら歩きます。
視覚・聴覚は衰えたとはいえ嗅覚は鋭く、糖度計で計るよりも正確にぶどうの熟度を教えて呉れます。もう食べ頃だから僕にも一房頂戴とばかりにです。膝を傷めてサッカーを諦めていた私の健康ウォーキングパートナー出現に、私もGabiも心から喜んでいます。今迄不遇だった分を取り戻すべく、カイ君はあと何年も健康で居られるような気がします。生まれたばかりのパンダも可愛いとは思いますが、我がカイ君の愛嬌も仲々のものです。