131.「新ワイン法」考察Ⅴ
2018/02/25
とにかくメーカー(ワイナリー)側を中心に、新しい法律に向けての準備は着々と進んでいます。そして10月末日がやって来ます。酒屋さんの店先はどう変化するのでしょうか。
まさか堂々と「輸入ワイン使用」やら「輸入原料使用」と表ラベルに書いて売る会社は居なくなるでしょう。 か? いやきっと大手のワイン会社は○○社アルゼンチン工場製として売り募るかも知れません。中小のワイン会社に於いて財政的にそれは無理でしょうが、東京の原料ワイン輸入商社が本業を失って次なる商売を模索するかも知れません。仲介して、現地(アルゼンチン・チリ・ブルガリア等)のメーカーと日本の中小ワイン会社を見せかけの合弁会社として縁組みさせ、大手方式をマネするかも知れません。自分がそれら今迄散々輸入原料でやって来た会社の経営者だったらどうするだろうか、と発想して得た私のアイデアですから、現実化するかどうかは分かりませんが。
すべてを知ってしまったワイン・ファンの人々の逆襲は決してあなどれません。哀れなる無辜(むこ)の民が転じて復讐を誓う王様(消費者は王様です)となりそうです。巷間ワインの真贋を問う論争が沸騰して、魔女裁判の如き様相を呈するかも知れません。自然派だ、エコだ、無農薬だ、天然酵母だとやっている小悪党供も一掃されること必定です。というのもその現場はかなりいい加減なものですから。「いえ、ぶどうは他の町から買っています。」 これも容認されなくなるでしょう。「生食用ぶどうのハネ品から作っていますだって?何言ってるのよアンタ」ともなりそうです。日本酒にも飛び火するかもしれません。「地酒」と言っておきながら原料米を中国地方の県に大きく依存しているのが実態なのですから。
喧噪過ぎて静寂。昨年、一昨年と店先にあった「国産ワイン」の数が100として、「日本ワイン」はその1/10~1/100とならざるを得ません。EU諸国やオーストラリア・ニュージーランドにとっては間違いなく吉と出そうです。堂々と自国のラベルを貼って日本の市場を賑わすことでしょう。
とここまで書いて、さっきお役所から来た文書を見てビックリ。決して「日本ワイン」とは名乗れませんが、在来の「輸入濃縮果汁を日本国内で水で割って戻した液体を発酵させて作るワイン」は「国内製造ワイン」と表現法を変えて、又々市場を闊歩することになるかも知れません。言葉遊びはもういい加減にしては如何でしょうか。どうして日本の皆さんは、ワイン作りとはぶどう作りが一体の特殊な地域起こし産業だと理解して呉れないのでしょう。今度こそはソムリエさん、皆さんの出番です。風見鶏的ワイン評論家さん達だって今が改心のチャンスなのですから、しっかりと物を申しましょう。
日本にはぶどうをほんのちょっとしか栽培していないのに、売っているワインの本数がその数千倍の4~8千万本という「超大手」(笑えないことながら、きっと世界の超大手と言い換えてもいいでしょう)が4社、次にビン詰め本数が20万本以上1千万本以内の「大手」が10社程、そして残り260社程の製造本数20万本以下のいわゆる中小ワインメーカーが存在します。(ワイン特区制度のせいで、設備も持たない年間3千本以下製造のガレージワイナリー20軒ほども中小に含めます。)上述「国内製造ワイン」表示の錯覚恩恵を受けるのは超大手と100万本以上の大手数社だけの話です。大手スーパーで小売値を千円以下に設定しているワイン群です。要は今回の「日本ワイン」の称号をどうしても欲しがるのは、中小メーカーが主体なのです。ですから私共のような、まともなワイナリーにとっては、元々どうでもいいことなのかも知れません。最後に審判を下すのは消費者の皆さんなのですから。