136.北海道での赤ワイン作り

2018/04/13

  世界中にワインの醸造所が60万軒あって、日々ぶどう栽培とワイン醸造を熱意を持って進めている人々が2~300万人居るとしましょう。私が思うに、その中の殆んどすべてに近い人々が、赤ワイン作りにこそ大きな情熱を感じていることでしょう。理由は幾つかあります。
◎先ずは、ぶどう栽培に於いて、薄緑色の白ワイン用品種に比べて、黒青色の赤ワイン用品種は、色調や渋味がきちんと乗って酸味も程良く残った、果実そのものを作り出すことが技術的にとても難しいからです。違った表現をすれば、とても手が掛かるのです。
◎第二に、そのようなぶどうから色・味・酸味・渋味ともバランスの取れた良い赤ワインを作り上げることが、白ワインを作ることよりも数段難しいこと。要するに、ここでも手間ヒマがとても掛かります。
◎そして、ワイン作りの華ともいうべき新樽寝かせ、ビン内寝かせにも手間と時間が掛かります。これらは良き赤ワイン作りには欠かせない手法です。
◎わざわざワイナリーを訪ねていらっしゃる、ワインファンの方々に味わって頂くシチュエーション作りも、赤ワインの場合簡単ではありません。お客様の目の前で大き目のグラスに赤ワインを注ぎ、良くstir(スター、揺り動かし)するとともに、より長い空気接触時間を稼ぎ出すべく、ワイントークにも工夫を凝らします。
  どうですか、いかにも手の掛かる我が子といった風情となります。手の掛かる子供程可愛いの道理通り、大概のワインの作り手の心は赤ワインの方に向いてしまうのです。
  想い起こしますと、ドイツ留学から帰国後、1978年に札幌の真北70kmの地・浦臼(うらうす)に2.9haのツヴァイゲルトレーベを植えました。これが北海道での真正赤ワイン作り第一号です。それ以前にはセイベル13053というフレンチ・ハイブリッド系の品種が北海道では試されていました。19世紀末に南フランスを中心に大流行した害虫・フィロキセラ対策として、南仏アヴィニョン近郊のモンペリエの国立育種研究所で交配作出された救世主的品種ゆえ、フレンチ・ハイブリッド(フランス交雑種)と呼ばれます。しかし、このぶどうは栽培してみればよく分かりますが(実際私も5ha程作ってみました)、とても作り易い。病気には無茶苦茶強いし、寒さには強い、そして実成りも早熟で超多産性です。楽なことこの上なし。ところがワインにしてみてビックリしました。何と表現すべきでしょう。何やらプラスチックを焦がしたような変テコリンな味に仕上がったのです。そのまま下水に流したい気持ちを抑え、多少のビン熟成を期待しましたものの、矢張りダメでした。記録では沢登という人物によって1960年代の中頃にその耐寒性ゆえ北海道東部に導入されたものの、それから60年以上たって、このぶどうから話題にのぼるワインはまだ作られたことがありません。
  さて、ツヴァイゲルトレーベです。自分自身が原木保存地のウィーンに出向いて北海道に持ち帰った品種ゆえ、愛着もひとしおながら、現在の北海道でのワイン製法は多少問題があります。私は1988~2012年の足かけ25年間北海道を留守にして、長野、新潟でワイン作り・ワイナリー作りをしました。そして今から6年前に再び北海道に帰り来て唖然としたのは、この品種でのワイン作りに於いて工夫や進化が何もなされていないことです。いずこも色薄く、味やわらかく、ライトボディーな作り方で、「導入者」の私としてはいささかガッカリしました。現在私共OcciGabi Wineryののツヴァイゲルトレーベが、他に比べかなり重いのは、私なりの工夫があってのことです。
  ここ20年来の温暖化を考えて、私共OcciGabi Wineryの畑には、更に重くて濃い赤ワインを作るべく面白い赤ワイン用品種群が植わっていて、次々とちょっぴり長が寝かせ型の赤ワインもリリースしております。本州から訪れる同業の(ということは今まで輸入原料で作っていた)人々が試飲カウンターで味見をして、「いくら何でも、これは輸入原料(濃縮果汁かワインそのもの)でしょう。そこの畑のぶどうであるハズがない」とまで言い切ります。私は内心快哉を叫びます。「そうだよねぇ。輸入原料で『国産ワイン』を作り続けて来た君達には分からないよね」と。
  それにしても不気味なことがひとつ。前回ソチで冬季五輪が行われた2014年の3月、すなわち五輪閉幕直後。南ドイツ(といっても北緯49度)に住む友人からメールが来ました。「まだ3月、冬だというのに日中の気温が20℃を超えた。急に夏になるのだろうか」と。
  その続きの2~3ヵ月の記憶も鮮明です。欧州の中・北部ではすぐに又寒くなったり、暑くなったりと振幅の大きな気候を繰り返して、葉物野菜には被害は出たものの、確か秋のぶどうの収穫は大豊作でした。反面2015年、2016年春~初夏は雹害(ひょうがい)に苦しむというツケも廻って来ましたが・・・。
  比較気象学なんてものはないのかも知れませんし、2014年3月の欧州と2018年3月の日本を比べても詮ないことながら、もしかして今年の日本も、という思いが頭を横切ります。