138.我が庭礼賛
2018/08/09
新潟でも23年、ここ余市で6年と、私の人生での第3号、第4号のワイナリー作りは、庭作りにも少なからぬ力点を置いています。奇妙な縁で、今から55年前の岩見沢東高校のサッカー部で同僚だった友人が、私の庭作りの終生の師匠です。彼自身が英国へ繁く出掛けたり、あちこちの本を沢山読んだりして身に着けた、いはゆる独学の技ながら、そのセンスの良さと動植物に対する愛情の細やかさゆえに、かなりの高みに到達した知見であると私は考えています。
現在地球上にあるといわれる60万軒のワイナリーが、すべて庭とぶどう畑を融合させてワイナリーの醸造棟を包み込む、といった手法を取っている訳ではありません。ぶどう畑の中に埋まったような形のワイナリーの方が圧倒的に多いと思います。庭など丸切り無いか、それとも僅か十坪程しかないワイナリーの方が一般的なのです。
40年程前にドイツでワインの勉強をしている時に、次男が同じ学校に来ていた縁で、合衆国カリフォルニアはナパのモンダヴィ・ワイナリーの当主ロバートと知り合い、話をしたのが起点です。彼曰く、「これからは今迄男性の飲み物だった酒、特にワインやビールの飲み手は確実に女性に移る。女性客を歓迎するなら、敷地をきれいにしなければね。」
結果、彼の影響力が絶大だったナパはガーデン・ワイナリーだらけになり、品の良いお客様を世界中から集める特異なワイン地帯となりました。彼の信条は次の一句に現れています。
Stay with us , and listen to the grapes grow !(ここに居て、ぶどうの伸びる音に耳を傾けて下さい!)そうです、ワイナリーとは「滞在する処」なのです。
現在、我がワイナリーの庭にはバラが70本植わっています。この植物は毎年微妙に姿・形を変えて美しく咲きます。庭園の女王です。女王様であればこそ、周囲には「お付きの者」よろしく小花系の宿根草花や山野草を配することとなります。樹木や水辺、そして大きな芝生も欠かせません。免許皆伝はまだでも、師の教えから逸脱しないよう一生懸命庭作りをしております。時々、自分の作ったワインを褒められるより、お客様が楽しそうに庭を歩いているのを見る方が嬉しくなるのはその為です。しかしこの感慨は、今をときめくかのミラノ工科大学のジャコモ・モヨーリ教授の思想にも添うものです。彼曰く、「これからのワイナリーは訪ね来る人が試飲カウンターから眺められる景色で決まる。庭、ぶどう畑そして遠景には森を配して雰囲気を作りましょう。」更に加えて、「その時ワインの味は二の次である。」と、これは御愛嬌で彼一流のジョークなのでしょうが。とにもかくにも、ワイナリー・ランドスケープ学という学問が生まれようとしています。