143.山のあなたの空遠く
2018/09/14
わがOcciGabi Winery Gardenの池のほとり。植えて4年経ち、枝を大きく拡げたカナダ楓(かえで)の木陰に座り、ぶどう畑越しに東方を眺めると、とても美しい山並みが3層に重なって遠望されます。一番手前が余市町登地区の丘陵のうねり、その上に小樽市や赤井川村の山々、そして約30km彼方の最上層は、札幌市南区と余市郡の境界を成す遥かなる連山。
この連山の主峰は6月中旬まで雪を残す余市岳(標高1,488m)で、その余市岳の手前のふもとはキロロ・スキー場、裏側の山麓には札幌国際スキー場や定山渓が在ります。そうです、意外や意外、我が余市郡は札幌市と背中合わせなのです。
以上のことを、訪ね来る人々に指さして説明しますと、「へぇ~、余市から札幌が見えるの。それにあれが余市岳?初めて見た、きれいですねぇ!」
地形の不思議とでも申しましょうか。唯一ではないと思いますが、私共の庭がこの雄大な景色を臨む、余市町内でもあまり無いViewing Point(観測地点)なのです。そして同時に、眼の前に大きく拡がる我がGardenのFocal Point(造園上の収斂点)でもあります。町内、他の何処に行っても、この展望が得られないのですから風水学的に見ても仲々得難い地勢です。
かつて6年余り前、この余市町で、私共は国内でも一番素晴らしいワイナリーを作ろうという理念を持って、あちこち候補地を見て歩きました。その時、担当の農業委員会の方々が私共に勧めて下さった3ヶ所のうちのひとつがこの地でした。しかも彼らが一番推さなかった地。最終決断をしたのは妻のGabi。人里離れた「ひっそり感」もさることながら、彼女に言わせると、「ビニールハウスが一つも見えないので気に入ったのよ」とのこと。訪ね来る都会の生活者であるお客様にとって、この観点も見逃せない重要なことです。
アメリカ合衆国史の裏話としてよく知られている一節を思い出します。本国イギリスとの独立戦争を終え、その直後に初代大統領となるジョージ・ワシントンと更にその遺志を継ぎ国を大きく発展させるトマス・ジェファーソン第3代大統領(この人は独立宣言文の起草者でもあります)。自分達の理想に燃えて建国するアメリカの首都を何処にすべきか。二人は馬を駆って東部13州を見て歩いたそうです。最終的にポトマック川のほとりの現在地を二人は選びました。雄大なランドスケープに魅せられてのことだったのは、言うまでもありません。
かの徳川家康公が遥か富士を望む大きな湿地帯の江戸を選んだのも同様の経緯によります。
何を大袈裟なと思われる方は、是非一度私共のWineryをお訪ね下さい。きっとご理解頂けます。
山の彼方(あなた)の空遠く
幸(さいわい)住むと人のいふ。
ああ、われひとと尋(と)めゆきて、
涙さしぐみ、かへりきぬ。
山の彼方(あなた)のなほ遠く
幸(さいわい)住むと人のいふ。
私の年代なら誰でも知っている、かのドイツの詩人カール・ブッセの作。上田敏の名訳により今も多くの人々の心に残っていると思います。
とても嬉しくなりますね。我が「山の彼方(あなた)」には、世界有数の美しい北海道・首都の札幌市があり、そして、そこはきっと幸(さいわい)住むところなのですから。