149.温暖化とパウダースノー(ニセコとキロロ)
2019/01/20
余市町にある我がワイナリーから南に40㎞行くとニセコ(ヒラフ)、東に30㎞行くとキロロがあり、どちらも冬場に強力な集客力を発揮するウィンターリゾート地です。しかもお客の対象は双方とも外国人が主体。来客数や土地の値段の上昇で比較すると、ニセコが横綱だとすればキロロは現在まだ小結か関脇程度の差はあれ、どちらも外国資本がかなり本腰を入れて開発しています。
かつて35年~30年前のバブル期に私は長野・新潟でワイナリー作りをしていて、すぐ傍の越後湯沢の全盛と崩壊を目の当たりにすることが出来ました。今の今でも余人は、信じられない程の地代の高騰ゆえにニセコもバブルの破裂近しと評しますが、どういう偶然でか湯沢とニセコの両者を至近の距離から見て比較する機会を ―30年余離れて― 得た私の分析はかなり異なります。
猫も杓子もマイボウル、マイゴルフセット、マイスキーセットを持ち歩いていたかのバブル期を支えたのは、何を隠そう我が同朋達。日本中のかなりの人々が今日は「中流の上」を謳歌し、明日は「上流の下」を夢見ていた頃のことです。株式投資やら土地投機とは全く縁遠い仕事をしていて、端で見ていても危ういなあと私でさえ実感していました。ところが現在のニセコやキロロは、対象顧客がオーストラリア、ニュージーランド、東南アジアの富裕層から、少しずつ欧米の金髪・碧眼層に移行しつつあるのです。
何故、外国資本はこの北海道の後志(しりべし)地区にあるニセコやキロロに投資するのか。炯眼なる一説には、パウダースノーのなせるワザというのがあります。とにかくアジア・オセアニア地区の中で一番空気がクリーンで乾いていて、しかも冬場の雪もサラサラとしているところがここだと言うのです。更にはもっと凄い説もあって、ヨーロッパのスキーゲレンデたるアルプス(スイス・オーストリア・イタリア・フランス・ドイツ)が20年来の暖冬ゆえ雪質が重く変化して、雪崩も多く発生しスキーに適さなくなって来ているからとか。驚きです。何やら丸でワインぶどうの栽培適地変遷の話を聞いているようだからです。遠くの温暖化の後始末までこちらが引き受けることになるとは。地元新聞一面に載った“フィンランド航空が北極廻りで千歳に定期便を就航させる、しかも冬季限定で”は、ですからとても意味深です。
昨年末キロロリゾートを所有するタイの財閥系の会社の人々が我がワイナリー・レストランを訪れました。先刻予約があって、当日はてっきり我等と同じ丸型ぽっちゃりのタイ人か華僑系の人が来るものと思っていたら、全く違う体形の人々がやってきました。最上位のオーナーはタイ人で今日は来られませんでしたと言ったNo.2の人物が生粋のドイツ人。No.3はドイツ系スイス人、そしてNo.4がオーストリア人とオール・ゲルマンで、会話も勿論ドイツ語。我がワイナリーをじっくり見学し、我がワインと共に食事を楽しみ、何と1週間後には私共夫婦と我がチーフコックを彼等キロロのレストランに招待したいとまで申しました。「キロロは現在急激に変化しているから見て下さい」と言い残して。因みにこのNo.2ドイツ人は自国でワインの学校も卒業していて、似た経歴の私に共感を覚えたとか。びっくりだらけです。
かつて国内資本によってバブル期に創設されたキロロ・リゾートは、その後数回オーナーが替り現在がタイの人ということですが、敷地内にはシェラトン・ホテルもあり、1区画1億円のコンドミニアムも100室余建造の真最中でした。来日外国人観光客数を更に1000万2000万人上乗せすると強気の我が政府に歩調を合わせるように、「欧米人観光客でここを一杯にしてみせる」と豪語するこの3人を、勝手に私は好意を込めて「ゲルマン・トリオ」と名付けました。Lothar、Martin、Peter(ローター、マーチン、ペーター)ととても好感の持てる人々です。