157.小淵沢のツグミ
2019/04/05
3月上旬の良く晴れた日に甲府に行ってきました。山梨学院大の生涯学習センターに招かれての講演のためです。私もよくは知らない大学だったのですが、実際に訪ねてみると何とも素晴らしく、キャンパス(大学敷地)のデザインは特筆すべきものでした。日本でもきっと東京の次に大きな敷地の得難い地で整然と建物群を配置して、構内の建物から建物へ樹々の間を縫って歩く時、心地よいリズムが感じられます。きっと高い理念を持って作られた学校なのでしょう。
さて、私の持論ではワイナリーも同様に高い理念を持って全体のランドスケープをデザインすべきです。大きな自然の中にゆったりとした大きなぶどう畑を配し、その中程にワインセラーを置く。自己の足が地に着かない程の大袈裟な主張はせず、身の丈に合ったワイン作りを心掛けて訪ね来るお客様と接する。季節の移ろいとともに時は流れ、ワインリーそのものが大昔からそこに存在したような風情となる。今迄は日本全国かなりいい加減なワイナリーだらけでしたが、昨年末の「ワイン新法」施行を受けて、それではと、ワイ用ぶどう畑作りに大きな関心を持って、本格的に取り組む人々も徐々に出て来ました。
今回の講演での私の論調は、ですから、次のようになりました。
★今回の新法を受けての、現在行われている我が国の新しいワイナリー作りで顕著なのは、付け焼き刃ゆえ、ぶどう畑作りがなっていない例が多いこと。
★近年の温暖化ゆえに北海道、特に余市地区が高級ヨーロッパ品種の栽培適地となって来たこと。
★ぶどう栽培に於いて全国一の技術を誇る甲府の皆さん、特に長男が跡を継いで脇に押しやられようとしている次男や娘さん達、余市にいらっしゃい。びっくりするような価格で大きな土地が得られます。
あとは余談で
★甲府・山梨の人々が10人20人と入って来て、余市のワイナリーゾーン化が成れば、広域合併で新しい名の自治体となる時、「新山梨」や「北甲府」も夢ではない。それは北海道ではよくあることですから。と、ちょっぴり無責任なことも申しました。
その日の宿泊は甲府よりちょっと北の北杜(ほくと)市小淵沢にある「Merle(メルル、仏語でツグミ)」という心暖まるVineyard Café & Lodge。経営者はかつての帝国ホテル時代からのワイン通ソムリエであられる小牧康伸氏。年頃も私と似ています。奥様を交えて夜更かししながらのワイン談義となりました。そして翌早朝、その敷地を散歩してみて、改めてビックリすることとなります。甲斐駒ヶ岳、八ヶ岳等々の大自然に取り囲まれた丘の上に、小牧御夫妻の白い建物は建っているのですが、何とその周囲はすべてワインぶどう畑でした。とに角この5~6000坪のランドスケープ・デザインが素晴らしく、妻のGabiと一緒に小一時間早朝の散歩を楽しみました。300坪程の白樺林も意識的に残してあり、夏場はグランピングも出来るようになっていました。
現時点ではまだ収穫量も少ないため、近くの醸造所に委託してワイン化して貰っているそうですが、それにしても非常に景色の良いワイナリーをひとつ見付けた喜びはひと塩で、美味しい朝食を頂き、再会を約して辞去しました。お世話下さった山梨学院大の諸先生、私のためにわざわざお出掛け下さった我が国ぶどう栽培学の最高権威であられる植原宣紘先生、そして小牧夫妻と素晴らしいホスピタリティーで暖かいおもてなしを受け、これはきちんと御恩返しをしなくては、と強く思いました。帰り来まして早速我が若き町長に“きっと山梨の若い人達が余市を見に来ますよ”と告げた次第です。