16.「濃縮果汁でワインを作る」
2015/06/19
ワイン作りの原材料をどこに求めるか、というところに論を発します。かつて4~50年前は出来上がったワインを200ℓの容器に詰めて、船で日本に運び込むという手法がとられました。要心して熱(パスツール)殺菌してから詰めたものを日本でビン詰めするのですが、又そこで熱殺菌されます。二度もパスツール殺菌されるのですから、泉下のルイ・パスツールもきっと驚くことでしょう。相手国はブルガリアやスペイン。その後ワインの調達先は南米のアルゼンチンやチリに移りますが、その理由は簡単で、常に世界一強い通貨「円」で一番安く買える相手ということです。分り易い表現ですと、より経済が不安定で貧しい国となります。
200ℓのワンウェイ使い捨て容器その物の名をとってこれらを「バルクワイン」と称します。お酒の法律が「ビン詰め作業こそが製造」という精神に即していますから、原材料がどこであれ、日本国内でビン詰めされれば「国産ワイン」ですし、どこかの会社でビン詰めされれば、「自社ワイン」なのです。
更にこの「ワイン作り便法」は進化します。2~30年前からは彼の国より、ワインではなく濃縮果汁をバルクに入れて運び始めます。自社内で発酵ぐらいさせないと良心が傷むから、と思いますか?いえいえ理由はもっと別のところにあります。
例えば
①4~5倍濃縮果汁にしますと運賃が1/4~1/5となります。
②濃縮果汁はその濃縮度ゆえ運送中に腐敗したり、発酵する心配が全くありません。
③濃縮果汁は水で希釈してから発酵させるのですが、一説には4倍濃縮液を12倍希釈して砂糖と香料を加えて味を一定にした上で発酵させるとも言われています。毎度丸切り同じ味になるようにです。
ワインを大量流通品として捉えると、結果こんな出鱈目な発想が出て来るのでしょうね。
私自身ワイン作りの世界に入って41年。不思議なことに、「ワイン作りをしています」とか「どこどこでワインを作っていました」という人には20人と会っていません。どうしてでしょう。業界では私の主義主張はよく知られていますから、議論を避けたいからでしょうか。「畑は何ヘクタール?」「品種は何?」「株と株の間隔は?」ならまだしも、「貴方のワインはどこから輸入しているの?」とまで私に尋かれかねません。
情け無い、の一語に尽きます。いつになったらマトモになるのかなぁ、と考え続けて来ましたが、最近原料ぶどうの生産地を表示しようという動きが出て来ました。勿論EUの圧力でです。でも本当にチョンマゲ切って両刀も捨てての時代は来るのでしょうか。