19.「ワイナリーの規模についてⅠ」
2015/06/19
先日、酒造関係の監督官庁である札幌国税局の人から尋かれました。「ワイナリー経営の適正規模について貴方はどう考えますか」と。以下はその時の私の答えです。
いわゆる「ワイン特区免許」での2kl=2700本規模は丸きりナンセンス。何故といって、出来上がったワインを1本2000円で売ったところで総売上げは年間540万円で、粗利益は更にその1/3~1/4。ぶどう畑、醸造棟、醸造施設、試飲販売コーナー等々初期投資の総額は超ミニ・ワイナリーでも数千万するでしょうから、中長期の事業計画が立てられません。しかも雇用には全く寄与しません。将来1本2~3万円の高級ワイン作りを狙うのならば、初期投資も数億円以上に膨らみますから、更に理屈が合わなくなるのです。
次に超大規模経営について。私は世界中のスタンダードな大きさは年産2万本~20万本だと思います。自営のぶどう畑を醸造所の隣に2~20ha持つことになります。雇用人員は平均20名位でしょうか。フランスのブルゴーニュは最少の方で、ドイツの私の友人達で個人経営のワイナリーは10ha・10万本前後。ボルドーのグラン・クリュ・クラスだと20ha・20万本が普通でしょうか。カリフォルニアもナパの大きいところは100ha・100万本が何十軒かあるものの、お隣りのソノマやナパも東山沿いのシルバラードは10ha前後が多いようです。世界最大級のワイナリーとして私が記憶しているのは、1980年代、他社への売却前のナパ・ロバート・モンダヴィの1000ha超とスペインはバレンシア郊外のトーレス社が所有していた1100haです。
日本の超大手4~5社は年間数千万本をリリースしていますから計算上は数千haのワイン用ぶどう畑を持っていなければいけませんが、ご存知の通り南米からワインそのものか濃縮果汁を輸入しての商売ですから、アリバイ程度の畑の面積でよいでしょう。大きな流通に身を任せ、末端の消費者に低価格のワインを大量に供給することを旨としています。名刺を持ち歩いていても、決して「私はワインの仕事をしています」とは名乗れない不幸な会社の人々がここにいます。
ワインは「土着性」を必要とします。又、同じ畑の同じぶどうから作っても、ほんの少しの気候の差異ゆえに大いに味わいの異なるワインが出来ますから、「個別性」も主張します。結果、宿命的に同じワインは少量しか作り得ませんから「希少性」も生まれます。江戸の簪(かんざし)職人や根付け職人、はたまたイタリアのクレモナに居るバイオリン製作者の世界とは似ているようでいて実は全く違います。原材料依存度が90%以上と非常に高い農産物加工品だからです。私は人生に於いて、ワインとはどのような物か説明して呉れと幾度も尋かれましたが、最近は「他に似たものが無い」という結論に達しました。
原材料を目の前の畑で作っていますから、毎秋収穫しなければなりません。毎年コツコツ仕込みます。出来上がってビンに詰めたワインには、通常の概念で言うところの「賞味期限」がありませんから、少しずつ手許に残します。それらをチビチビやりながら、又若いワインを仕込む。お分かりですか。神経質な人間のやるべき仕事ではありません。大雑把な性格の人に適った職業といえるでしょう。そういえば北海道で私の知っている適任者として名を挙げれば三笠の山崎君、余市の曽我君。この両名とも、そして私自身も大雑把です。
都会でのストレスの多い生活に袂別したい人、男性上位の詰まらない生活から抜け出して自立した人生を送りたい女性、功なり名を遂げて人生の残りをゆったり何かしたい人。そんな人々に適った職業なのは確かです。しかし、ここで梶をこちらの方に切ったら、簡単に元の道には戻れない職業なのも真実。そんな訳で、大雑把ながら頑固な性格の人にむいていることになりそうです。