21.「ぶどうのこと」

2015/06/19

 この地球上で人類に一番好まれている果物は何でしょう。ぶどうだと思います。世界全体の統計数字の入手は無理でも、良い方法があります。アメリカ合衆国の果樹園を自認するカリフォルニア州の数字を追ってみるのです。バナナ、パイナップル等熱帯系のもの以外は色々な果物を産出している州ですが、量の多い順にぶどう、柑橘類、桃、りんご、あんず、プルーン、プラムと続きます。中でもぶどうは約50%と断然トップです。
 世界中の人々がそんなにぶどうを食べているかしら、と思う方もいらっしゃるでしょうが、ちょっと深くお考え下さい。ぶどうの食し方には大きく分けて3通りあります。ナマで、乾燥させて、そして液体でと。日本でですと、八百屋さんやスーパーの店先きから買ってきてそのまま食べることが一番多いように感じられますが、米国の統計数字ではレーズンでが55%、ワインでが30%、残りの15%が生食及びジュースです。
 世界の宗教圏を想像してください。イスラム教の国々では教義ゆえにワイン作りは行われていませんし、そもそも生食というのは、流通網のしっかりした地域でなければ成立しません。又、レーズンは収穫したその畑で浅い籠に入れて天日で乾かして作るものですから、砂漠性の気候下の方が、糖分摂取のためにも適した加工品です。かくしてぶどうという果実の多くがレーズン化されるのです。
 或る人がぶどうの写真を見て、レーズンを想うか、お酒(ワイン)のことを考えるか。ぶどうはナマで食べるものと思いがちな日本の人々にとってはそんなことは考えられないことかもしれません。ぶどうの木のことをヴァインとよぶ英語、ぶどう畑を見てワインガルテンとよぶドイツ人。面白いとは思いませんか。
 自分の生涯の仕事がぶどうを栽培して、そのぶどうからワインを作ること。そして時々、いやしょっちゅうそのワインを味見することなものですから、人一倍この果物に執着しています。勿論、生食もレーズンも皆とても好きです。この果物を好きになること。それがワイン作りの第一歩と確信しています。
 余談ながら、以上3つの食し方に沿って栽培も品種改良もされて来ましたので、実(じつ)はワイン用、レーズン用、生食用と、丸切り異なる特性を持った品種群となりました。世界中、兼用はしないのが普通で、専用の品種がそれぞれあるのです。