28.「ワイン表示ルールの改正」
2015/06/21
今、ネット上でワインの表示法変更の議論がかまびすしい。「業界の指導を守ってやって来たのに、急に180度方向転換するのはおかしい。」「いや、現行の表示ルールは欧米に比べて不誠実で、これでやっと日本のワインもまともになれる。」「急激な変更ではなく、日本が得意の軟着陸を目指すべきではないか。」等々。
かつてドイツで学んで、帰国後40年間ずっと我が国のワインの法律は間違っていると主張してきた私にとりましては、目糞、鼻糞を笑うの議論にしか聞こえません。新ルール反対派の「業界指導」理論は勿論、論外です。ワインという産物の性質上、業界はどうでもよく、大事なのは自分のハズです。自分の不正直を他人のせいにしようとしています。又、旧ルール攻撃派にも、今迄の日常を辿れば、囲りの空気を読んで沈黙を守って来たくせに、今更何を言うかと申し上げたい。偽善者め、という心境です。
大体、外国からのワインを自社のビンに詰めたり、輸入した濃縮果汁から作ったものをワインとして扱ったりしていることを、社会の殆んどの人々が「まさか、そんなことないでしょう」と信じようとしなかったこと自体がおかしい。多くのワインメーカーの殆んど犯罪に等しいまやかしを放置し続けた当局にも責任の一端はあるにせよ、それをこの期に及んで鬼の首でも取ったみたいに声高に叫ぶのはもっと醜い。一部始終を全部知っていたくせにですよ。ワイン通を称する方々にも申し上げたい。例えば山梨県を旅して何処に一体ワインぶどうが植えてありますか。それもシャルドネやカベルネ・ソーヴィニョンの味のするぶどうが。「国産」ワインの76%が輸入原料由来で、23%が生食ぶどう、そして僅か1%が国産の生まのワインぶどうから作られたワインである。と、お役所の発表を受けて今頃びっくりするなんて、逆に私にとっては不可思議です。
でも楽しいですね。今迄インチキを公然とやって来た日本の大多数のワインメーカーが、次なるインチキをどうやって考え出すのか。想うだけでもゾクゾクします。しかし、よーく考えると、今回の改正は間違いなくEUからの外圧によるものです。ところが国内の消費者に向けての今迄のインチキを高度化(?)させて対外国のマジックを作り出そう。そんな風に考えたところで勝負は見えています。EUは大昔から製造業者の嘘を見抜くことに多大な精力を費やして来たのですから。さればこそ、” in vino veritas! ” (ワインの中に真実を!)という警句が言い伝えられて来たのです。ドイツの授業での先生の説明が思い出されます。「この言葉は紀元後69年のプリニウスの [博物誌] に出て来ます。ということは、そんな昔からワイン作りで悪いことをする輩が居たということです。」
今回の改正案には他にも付加条項があって「OOワイン」と表ラベルに地名を付した場合、その地(OO)のぶどうが85%以上使われていなければいけない、というのです。そうでなければ地名を外すべしと。大体地名を冠したワインなんて世界基準では三流ワインのすることです。「○○ワイン」と書いて原料がその地ではなく、殆んどが20,000km離れた南米だというのですから、これはブラック・ジョークに近い。勿論「○○ワイン」と名乗って隣り町のぶどうを使うのもダメとなります。
それと最高に滑稽なのは、今後「国産ワイン」という表示は使用しないとのこと。この表示がすっかり泥まみれ、嘘まみれとなってしまったからです。「日本ワイン」、これが国産ぶどう100%で作られたワインの表示になるそうです。今迄は国内でビンに詰められれば国産、自社内でビンに詰められれば自社産、そして時々「一粒一粒を丁寧に厳選して仕込みました」の添え書きまで付けて。オレオレ詐欺とそっくりですね。
よく疑ってから国産ワインは選びましょう。製造している所に出かけて、畑を見せて貰って、当主に何でも尋くことです。(以上、新ルールの出典は日経ビジネスOn Line 4/24/2015)