31.「自分達の住む町だから」

2015/06/21

 若い頃からお金も余りないくせに、よく外国を旅します。殆んどはワイン作りに関係のある田舎の村で、一度訪ねて気に入ると同じ所に何度でも出掛けてしまうのも私のクセです。この村のこの角の家を廻り込むと、あっ、やっぱりこんな景色だ、等と何やら確かめに出掛けるみたいにです。
 そんな他人の町の景色なんか放っておけ、なんておっしゃらないで下さい。街角を曲がってふっと人を魅き付けるような景色というのは、よく見ると、その集落の人々の手入れや心遣いの集積なのです。自分の家の中だけ、ちょっと拡大しても自宅の塀の内側だけが自分の責任領域だと考えがちな我が国と異なり、西欧の田舎町では人々は「ここは自分達が人生を送る空間」という考え方で、皆で町中をきれいにします。決して中途半端な発想ではありません。町全体がガーデン・デザインされているといっても過言ではない程、心地良い空間がそこにあります。
 Controlled chaos(コントロールド・ケイオス)、私なりに和訳して、「仕組まれた雑然さ」。これが庭作り、街作りの重要な基本理念です。Controlled order(設計されたような整然さ)やUncontrolled chaos(単なる草ぼうぼう)は頂けません。
ホームセンターを経営なさっている方々には申し訳なくも、それらの店で扱われている草花の何と味気ないことか。イングリッシュ・ガーデンとは決して和風庭園の対極にあってゴテゴテとやかましい色合いの植物群で庭を埋め尽くすものではなく、精神性に於いては和風庭園に通じるものを多く持っています。左右非対称を旨とし、何よりもバラ以外は派手な花を嫌います。樹木は深く切り戻さず奔放な枝振りを尊重して一般に球根類は多用しません。静けさを、自然を演出しようとしていながら、それが過剰にならないよう配慮します。苔むした岩の代わりに芝生を使いますが、それでもこう書き連ねてくると、日英双方の類似点の多さに気付かされます。
 ウィンブルドンと英国南部の庭を見に、初夏の今頃多くの我が同邦人がロンドンへ飛びます。地球を科学することに長けた英国人が、同時に地球を美化する名人でもあることは研究に値する命題です。そういえば芝生が必要なスポーツは殆んど英国原産ですね。ゴルフ、サッカー、テニス、クリケット(野球)、ラグビー(アメリカン・フットボール)、ポロ、ホッケー、、、。
 勿論英国ならずとも、ワイン作りの田舎例えばフランス、イタリア、スペイン、ドイツの田舎もとてもきれいです。田舎をきれいにしても自分達は何も儲からない、等とさもしいことを言うのは止しましょう。誰の為でもない自分達の為です。きれいなところに住むのは気持ち良いものです。それに集落がきれいだと、実は儲かるのです。その話は次の機会に。